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常栄寺庭園の写真

三方を山に囲まれた奥行きのある地形を生かし、本堂の北に造られた常栄寺庭園。広々した枯山水の向こうに、大小二つの池が広がる

なぜ“雪舟庭”? ―屈指の名庭「常栄寺庭園」―

全国に数多くある雪舟庭。いずれの庭園についても雪舟作を裏付ける室町時代の記録はありません。では、なぜ雪舟庭といわれてきたのか。屈指の名庭「常栄寺庭園」を通して、謎めいた雪舟庭を紹介します。
室町時代の画僧・雪舟(せっしゅう)が生誕して今年で600年。雪舟は庭造りも優れていたとされ、“雪舟庭”といわれる庭は、全国に数多くあります(※1)。雪舟とゆかりが深い山口県内だけを見ても、江戸時代から大正時代の記録によれば10以上。中でも最も有名なのが、山口市宮野にある国の史跡及び名勝「常栄寺庭園」です。しかし、実は全国各地のどの雪舟庭も、雪舟作を裏付ける室町時代の記録は、残念ながらありません。では、なぜ雪舟庭とされる庭園が全国各地に数多くあるのでしょうか。
そもそも日本庭園は、古くは朝鮮半島や中国大陸から仏教の世界観や神仙思想(※2)などを取り入れた庭園が伝えられたことに大きな影響を受けています(※3)。その後、日本独自の様式(※4)が誕生。室町時代には、禅僧が関わって優れた庭園が造られるとともに、枯山水(※5)など日本独自の様式がさらに発展していきました。
雪舟も禅僧で、享徳3(1454)年ごろ、西国一の大名・大内(おおうち)氏が本拠としていた山口へやってきました。やがて大内氏が仕立てた遣明船で中国へ。帰国後は九州に滞在した後、再び山口に。日本人画家として初めて水墨画の本場へ渡った雪舟の絵は、高く評価されるようになりました。

常栄寺庭園の石組には、雪舟の絵に共通する世界がある!?

なぜ雪舟庭が多いのか。その謎を解くカギとして次のような説があります。江戸時代も中国の文物が珍重され、そうした中で雪舟は中国の文物や風趣のシンボルに。“伝雪舟”は「実作者の伝承というより、ニワ(庭園)の出来栄えを示す慣用句的な雅語(がご)(※6)として機能してきた(中略)とでもいうべきではなかろうか(※7)」…と。つまり雪舟庭とは「まるで雪舟が造ったようだ」と例えた褒め言葉だったのでは、ということでしょうか。
とはいえ、特に常栄寺庭園については、それだけでは語れないものがあります。常栄寺の地は室町時代、大内政弘(まさひろ)の母の菩提寺「妙喜寺」があった地。その政弘と父の教弘(のりひろ)こそ、雪舟の強力なパトロンだったからです。このことは、常栄寺庭園は雪舟作という可能性を一層高めます。
では、常栄寺庭園を雪舟庭とする伝承はいつごろ生まれたのか。それが分かる最古の記録は、元禄14(1701)年に編さんされた記録(※8)の慶長12(1607)年の条、雪舟が亡くなって約100年後のものです。そこには、庭園は“雪舟が西湖(せいこ)(※9)の景観を移したもの”とあります。ただし、正徳2(1712)年の記録では雪舟の名はなく、“京都の西芳寺(さいほうじ)(※10)を模したもの”とあり、さらに後の天保12(1841)の記録では、雪舟が大内政弘の命で造ったと断じられています。異なる記述に一層謎めいてきますが、雪舟庭の伝承が当時すでに広まっていたことは十分にうかがえます。
さて、その常栄寺庭園とはどういう構成なのでしょう。本堂前の広々とした空間に、さまざまな石組が点在する枯山水。それを通して遠くに見えるのは、大海や川を思わせる大小二つの池。正面からは見えにくい右奥には、山の斜面を活かして何段にも石を組んで造られた、今は水のない、落差5メートルの豪快な滝。池の護岸には、屏風状に連なる大きな石。そして正面奥には大きな石が幾つも据えられた深い渓谷…。
庭園研究家は次のように高く評価しています。「常栄寺の枯山水石組は(中略)いかにも雪舟の絵画的構成そのものが表現されている(※11)」「様式手法上、近世の作とは考えにくく、中世の作庭と認められる(※12)」「雪舟の山水画に見られる見事な遠近感の構匠である(※13)」等々。
また、雪舟について「直線と角との最大巨匠(※14)」と評したアメリカの東洋美術評論家フェノロサの言葉があるように、枯山水の石組の直線などに注目し、「立石が多く使われ、石の角と線が強調されており、雪舟の絵に共通する(※15)」とする見方もあります。
謎めいた常栄寺庭園。雪舟の絵を思い浮かべながら想像を巡らせ、幻の滝の音に耳を澄ませば、山水画を立体にした大空間が見えてくるかもしれません。
本堂にある雪舟庭案内図の写真
本堂にある雪舟庭案内図の写真

本堂にある雪舟庭案内図。かつての建物の位置を推測し、三つのポイント(図に数字で示した場所)からの観賞と、園路を回遊しながらの観賞を考えて作庭されたのではと考察されている
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本堂にある雪舟庭案内図。かつての建物の位置を推測し、三つのポイント(図に数字で示した場所)からの観賞と、園路を回遊しながらの観賞を考えて作庭されたのではと考察されている
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本堂の北、波打っている地面に広がる枯山水の写真
本堂の北、波打っている地面に広がる枯山水の写真

本堂の北、波打っている地面に広がる枯山水。最大の見どころの一つ。本来、芝生はなく、「白砂敷きの緊張感の高い空間だったのでは」という説がある。また、鋭い線をみせる石が多いこと、さまざまな高さや形の石組があることも特徴。①の視点からの景観
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本堂の北、波打っている地面に広がる枯山水。最大の見どころの一つ。本来、芝生はなく、「白砂敷きの緊張感の高い空間だったのでは」という説がある。また、鋭い線をみせる石が多いこと、さまざまな高さや形の石組があることも特徴。①の視点からの景観
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本堂の北西にある出島からの景観の写真
本堂の北西にある出島からの景観の写真

本堂の北西にある出島から、つまり②の視点からの景観。北東の山畔(さんぱん)には滝石組、土橋の右手に「蓬莱石」とされる石が見える。出島とは、池に半島のように突き出たところ。出島には建物があったのではと考えられている
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本堂の北西にある出島から、つまり②の視点からの景観。北東の山畔(さんぱん)には滝石組、土橋の右手に「蓬莱石」とされる石が見える。出島とは、池に半島のように突き出たところ。出島には建物があったのではと考えられている
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滝石組の写真
滝石組の写真

滝石組は「極めて豪華で日本庭園の白眉」と高く評価されている。現在、水は流れていないが、水が右へ左へと変化しながら流れるように造られている。池には、今にも水面から飛び出して滝を上ろうとする鯉を表した鯉魚石(りぎょいし)がある
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滝石組は「極めて豪華で日本庭園の白眉」と高く評価されている。現在、水は流れていないが、水が右へ左へと変化しながら流れるように造られている。池には、今にも水面から飛び出して滝を上ろうとする鯉を表した鯉魚石(りぎょいし)がある
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滝石組の近くから見た池泉の写真
滝石組の近くから見た池泉の写真

滝石組の近くから見た池泉。神仙思想に基づく鶴島・船石・亀島が見える
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滝石組の近くから見た池泉。神仙思想に基づく鶴島・船石・亀島が見える
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北東から本堂を見た景観の写真
北東から本堂を見た景観の写真

北東から本堂を見た景観。手前に、小さな池。土橋の向こうに、海を表した大きな池がある。現在の本堂は、往時の本堂が焼失後、昭和8(1933)年に再建されたもの
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北東から本堂を見た景観。手前に、小さな池。土橋の向こうに、海を表した大きな池がある。現在の本堂は、往時の本堂が焼失後、昭和8(1933)年に再建されたもの
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  1. 特に山口県・福岡県・大分県・島根県・広島県など西日本に多い。 本文※1へ戻る
  2. 仙人は海中の蓬莱山(ほうらいさん)などの三神山に住み、そこへ行けば不死の薬を得られると考えた思想。 本文※2へ戻る
  3. 庭園に、長寿のシンボルである亀島や鶴島など、永遠の生命と繁栄を願う神仙思想に基づくものが造られる。亀島は亀の形を、鶴島は鶴の形を複数の石で表した島。 本文※3へ戻る
  4. 平安時代の「寝殿造庭園」や「浄土式庭園」。いずれも建物の南や東に池を造り、島を設けて橋を架け、建物から眺めたり、船を浮かべたり、池の周囲を巡ったりして鑑賞した。 本文※4へ戻る
  5. 水を用いず、石や白砂で山水を表現する様式。 本文※5へ戻る
  6. 優美な言葉。 本文※6へ戻る
  7. 百田昌夫「(2)近世・近代庭園記事の事例について-文献所見の記事検索の試み‐」『山口県の庭園(未指定文化財調査報告8)』による。 本文※7へ戻る
  8. 『闢雲志(びゃくうんし)』。白石直典『雪舟の庭』による。 本文※8へ戻る
  9. 中国浙江省(せっこうしょう)杭州(こうしゅう)市にある、島や堤防が多い、美しい景観で知られる湖。 本文※9へ戻る
  10. 禅僧・夢窓疎石(むそう そせき)が改修した回遊式庭園がある。別名「苔寺」として有名。 本文※10へ戻る
  11. 重森三玲・重森完途『日本庭園史大系』第7巻・室町時代の庭(三)による。 本文※11へ戻る
  12. 西桂「(1)山口県の庭園概説」『山口県の庭園(未指定文化財調査報告8)』による。 本文※12へ戻る
  13. 白石直典『雪舟の庭』による。 本文※13へ戻る
  14. 『山口市史 各説篇』による。 本文※14へ戻る
  15. 内田伸「山口県下の雪舟作庭伝承のある庭園」『山口県文化財』第24号による。 本文※15へ戻る

雪舟生誕600年関連記念事業

今年は雪舟生誕600年に当たることから、山口市内では、さまざまなイベントを開催中です。中でも「常栄寺庭園(雪舟庭)」では、音楽家・坂本龍一(さかもと りゅういち)さんと山口芸術情報センター[YCAM]のYCAM InterLab(インターラボ)による作品「Forest Symphony(フォレスト・シンフォニー)」を10月3日(土曜日)から12月6日(日曜日)まで展示します。
期間:12月まで
場所:常栄寺庭園(雪舟庭)、大内文化特定地域およびJR山口駅周辺、そのほか市内各地

毛利博物館「特別展 国宝」

国宝に指定されている雪舟筆「四季山水図」など、毛利博物館が所蔵する国宝や重要文化財が一堂に展示されます。
なお、国宝の伝雲谷等顔筆「四季山水図」は11月20日(金曜日)まで。国宝の雪舟筆「四季山水図」は11月21日(土曜日)からです。
期間:10月31日(土曜日)から12月21日(月曜日)まで
場所:毛利博物館

参考文献