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常徳寺庭園の写真

中島の大きな景石は以前、前方に倒れていた。発掘調査の結果、石が立っていた痕跡を確認し、石を起こして復元。石の天地が逆だった可能性もある。自然岩盤を利用した荒々しい築山と、対岸の立石との間から、庭園に水が流れ込む。

甦った伝雪舟庭!! 阿東にある国の文化財「常徳寺庭園」

数多くある伝雪舟庭のうち、わずか五つしかない国の文化財の一つ、常徳寺庭園。かつては土砂に埋もれていましたが、数百年ぶりにこの秋、その傑出した庭が甦(よみがえ)りました。雪舟の国宝の絵に似ているという説でも注目される常徳寺庭園を紹介します。
室町時代の画僧・雪舟(せっしゅう)が築いたと伝わる“雪舟庭”。全国に数多くある中で、国の文化財となっているのは五つしかありません(※1)。そのうち最も新しく平成12(2000)年に指定されたのが「常徳寺庭園」。山口市阿東蔵目喜(ぞうめき)地区の深い山あいにあり、庭園の研究者から「すさまじい庭(※2)」と高く評価されている庭園です。江戸時代後期の史料に雪舟庭の伝承があるものの、当時すでに荒廃。そうした庭園がなぜ国の名勝に指定され、今注目されているのでしょうか。
蔵目喜地区は古くから鉱山で栄えた地。地誌には、地名は「浮かれ騒ぐこと」といった意味の「ぞめき」に由来する、とあります(※3)。室町時代、山口を本拠とした西国一の大名・大内氏は、明へ多くの銅を輸出。蔵目喜地区がその中心的な鉱山だったと考えられ、江戸時代に最盛期を迎えたとされます。
常徳寺の山号はまさに「出銅山(しゅつどうざん)」。寺の歴史には諸説あり、一説では創建、あるいは再興は、安土桃山時代の天正年間(1573-1593年)と伝わります。実際、境内には天正‐慶長年間(1573-1615年)の石造物が多く残り、銅山の活況の中、この傑出した庭が造られた可能性が非常に高いと考えられます。しかし、雪舟が生きた時代(1420-1506年頃)とはズレが生じることを考えると、常徳寺の創建前、つまり室町時代には別の寺があり、その庭として雪舟が造った可能性も捨てきれません。

雪舟作の国宝「秋冬山水図(冬景図)」の世界に酷似!!

庭園は、平成になって発掘調査が始まる前、山崩れなどによって著しく埋もれた状態でした。発掘調査の結果、中島のある池泉(ちせん)庭園だったことが判明。2回改修され、そのうち1回目は慶長年間の可能性が高いことも判明。「近世初頭の優れた作庭として価値が高い」として国の名勝に指定され、復元整備を経て、この秋、かつての庭が数百年ぶりに甦りました。
手前を長辺、奥を短辺とした、遠近法を生かした台形状の中島。そこに集中的に据えられた形の鋭い幾多の大きな石。庭の後方左手からは、頭上高くからせり出た荒々しい岩盤の斜面。その麓には渓谷状の滝石組。水は近くにある鍾乳洞「こうもり穴(※4)」から湧き出たもので、それを滝石組へ導き、中島を巡って川へ…。
この庭園について、庭だけでなく、背後の景観まで含めて眺めると、雪舟作の国宝「秋冬山水図(冬景図)」に似ているという興味深い説が平成20(2008)年、当時東京農業大学教授(現在 同大学名誉教授)の鈴木誠(すずき まこと)氏・明石理恵子(あかし りえこ)氏から発表されました(※5)。冬景図では、手前に水面(みなも)。その水面へと左手からせり出した岩盤。右手には、暗がりのある岩盤。山の奥へと誘う小道をたどっていくと楼閣へ。遠くには、大岩盤を表すのか、天空を切り裂くように、謎めいた力強い線が垂直に立ち上がっています。
鈴木氏らの調査では、常徳寺周辺には、池泉や左手の岩盤、鍾乳洞のある岩盤だけでなく、庭園脇の小道を進んだ左奥に僧坊があったと伝わる「御坊」の地名を持つ平場、右奥には「地蔵の滝(※6)」と呼ばれる高さ約18メートルの石灰岩の3つの岩峰があることが地元の皆さんの協力で分かりました。そうして見る実際の景観は、雪舟の冬景図の世界と驚くほど似ています。
さらに鍾乳洞の中には座禅ができるような平らな石があることに、鈴木氏らは着目。その鍾乳洞は雪舟が洞窟で座禅中の達磨(だるま)を描いた有名な「彗可断襞図(えかだんぴず)(※7)」を連想させます。
全国のどの伝雪舟庭にも、雪舟作を裏付ける当時の史料はありません。しかし、雪舟の絵の世界と酷似しているこの庭は、雪舟作と考えるロマンを十分に味わわせてくれます。遠近法が巧みに使われている雪舟の絵。常徳寺庭園も、庭の石組や岩盤などに視線を導かれ、遠くまで視野を広げ、想像を膨らませれば、時空を超えた壮大な世界が立ち上がってきます。
昭和40年代の常徳寺庭園の写真
昭和40年代の常徳寺庭園の写真

昭和40年代の常徳寺庭園。山崩れなどで埋もれていた。平成8年度から10年度に発掘調査が行われた結果、「近世初頭の優れた作庭として価値が高い」として平成12年に国の名勝に指定された
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昭和40年代の常徳寺庭園。山崩れなどで埋もれていた。平成8年度から10年度に発掘調査が行われた結果、「近世初頭の優れた作庭として価値が高い」として平成12年に国の名勝に指定された
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境内にある鎌倉末期から南北朝期と推定される石造物の写真
境内にある鎌倉末期から南北朝期と推定される石造物の写真

境内にある鎌倉末期から南北朝期と推定される石造物。境内にたたずむ、古びた多くの石造物が、寺の長い歴史を物語る
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境内にある鎌倉末期から南北朝期と推定される石造物。境内にたたずむ、古びた多くの石造物が、寺の長い歴史を物語る
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雪舟筆 国宝「秋冬山水図」(東京国立博物館蔵)の写真
雪舟筆 国宝「秋冬山水図」(東京国立博物館蔵)の写真

雪舟筆 国宝「秋冬山水図」(東京国立博物館蔵。東京国立博物館のホームページより)。雪舟の代表作の一つ。秋景と冬景の二幅からなる。雪舟独特の荒々しい筆致。岩や木などが折り重なるように配置され、見る者の視点を奥へ奥へと導く
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雪舟筆 国宝「秋冬山水図」(東京国立博物館蔵。東京国立博物館のホームページより)。雪舟の代表作の一つ。秋景と冬景の二幅からなる。雪舟独特の荒々しい筆致。岩や木などが折り重なるように配置され、見る者の視点を奥へ奥へと導く
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復元整備を経て今年10月に公開された常徳寺庭園の写真
復元整備を経て今年10月に公開された常徳寺庭園の写真

復元整備を経て今年10月に公開された常徳寺庭園。平成24‐27年度に追加の発掘調査が行われ、その結果をふまえ、第2期(江戸時代初期)の遺構を中心に整備された
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復元整備を経て今年10月に公開された常徳寺庭園。平成24年度から27年度に追加の発掘調査が行われ、その結果をふまえ、第2期(江戸時代初期)の遺構を中心に整備された
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冬の「地蔵の滝」の写真
冬の「地蔵の滝」の写真

冬の「地蔵の滝」。3つの石灰岩の岩峰が屹立(きつりつ)している。現在はこの前方に大きな木が繁っており、その木に遮られ、庭園からこの岩峰を見ることはできない
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冬の「地蔵の滝」。3つの石灰岩の岩峰が屹立(きつりつ)している。現在はこの前方に大きな木が繁っており、その木に遮られ、庭園からこの岩峰を見ることはできない
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「こうもり穴」の写真
「こうもり穴」の写真

通称「こうもり穴」。奥の深い石灰岩洞窟。ここから湧き出るかつては霊泉ともされた水が、庭園に導かれている。洞内には、座禅石のような石がある
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通称「こうもり穴」。奥の深い石灰岩洞窟。ここから湧き出るかつては霊泉ともされた水が、庭園に導かれている。洞内には、座禅石のような石がある
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  1. 国の名勝として「常徳寺」(山口市阿東蔵目喜地区)や「旧亀石坊」(福岡県添田町英彦山)、国の史跡及び名勝として「常栄寺庭園」(山口市宮野)、「医光寺」(島根県益田市)、「萬福寺」(島根県益田市)の計五つが国の文化財に指定されている。 本文※1へ戻る
  2. 白石直典『雪舟の庭』。 本文※2へ戻る
  3. 『防長風土注進案』21 奥阿武宰判による。 本文※3へ戻る
  4. 雨や雪が降ると、雨水が集まり、大量の水があふれでてくる。かつて、病気やけがに効く霊泉として信じられていたという。 本文※4へ戻る
  5. 鈴木誠・明石理恵子「名勝常徳寺庭園と雪舟」2008(平成19年度日本庭園学会研究大会発表要旨)。山口市教育委員会『山口市埋蔵文化財調査報告 常徳寺庭園2』に収録。 本文※5へ戻る
  6. 実際には滝はなく、滝が流れているように見えることから、その名がある。大雨の日には、水が実際に流れると伝わる。岩峰の途中には、庭園の世界で「鯉魚石(りぎょいし)」と呼ばれる、鯉が滝のぼりをするような自然石があるように見える。なお、以前は庭園から地蔵の滝が見えたと伝わるが、現在は木に遮られて見えない。 本文※6へ戻る
  7. 禅宗の開祖・達磨が岩壁に向かって座禅していたところ、一人の僧(後の彗可)が入門したいと現れ、その本気を示すため、左腕を切り落とし、達磨に見せようとした様子を描いたもの。 本文※7へ戻る

山口県立美術館〈雪舟600年〉展

今年は雪舟生誕600年。山口県立美術館所蔵の重要文化財3点を中心に、昨年度新たに紹介された作品など、貴重な雪舟の作品を紹介します。時間指定・定員制(予約優先)による入場となります。
期間:10月31日(土曜日)から12月21日(月曜日)まで
場所:山口県立美術館

参考文献